DREAM THEATER IMAGES, WORDS & BEYOND 25th Anniversary Tour
スタジオ音源のことを「アルバム」と読ぶ。私にとってはDream Theaterのアルバムを引っ張り出すと、リリース時期に聴き込んだ頃の思い出が蘇る、まさにアルバムのような存在。
流石に1992年当時にリアルタイムで聴いた年頃でないけど、2ndアルバム「Images and Words」は特にプログレッシヴなメタル界での金字塔。今回は2ndアルバムリリース25周年を銘打った「IMAGES, WORDS & BEYOND 25th Anniversary Tour」の大阪公演に足を運んだ。夕方の新福島の街が魅惑的。
会場のグランキューブ大阪は大きなコンサート会場で、ヘヴィメタル界でも走り回ってライヴを楽しむタイプのバンドは利用しない。
全席指定とは言え演奏中はスタンディングするけど、少なくとも飛びはねるタイプではない。
大阪ルールに則ってエスカレーターは右寄り。日本人メタルファンは、ステレオタイプとは裏腹に普段は生真面目なところがあり、中でもプログレメタルは特有のオタクっぽさも兼ね備えている。※あくまで個人の印象。
SNSに「来たよ」投稿するために撮影されがちなのがポスターと、ツアー名の入った電光掲示板。
Tシャツ販売に群がるファン。スーツで仕事帰りにライヴ鑑賞するサラリーマンが正装として現地調達したり、愛好家の間で歴史的瞬間に立ち会ったことを誇示したりする。昨今のフリー化した音楽市場は、ライヴとTシャツ販売で市場が成り立ってんじゃないか。
タワーレコードの店舗でも売っているCDを、わざわざ会場の物販で買う。言ってしまえば、データで聴けるご時世にCDを持つこと自体が「わざわざ」なんだけど、さらにCDというモノに自分のエピソードを意味づけしたい。
直前にチケット取ったので席はステージから遠い。会場の一番後ろまで「S席:¥12,000」なんて物は言い様だ。
3時間が一瞬で過ぎる
前半に多く演奏された最近の曲は、ハマっていた昔ほど聞き込めていなかった。改めて聴くと「かなり良いじゃないか」という発見の連続で、これぞライヴの醍醐味。ジョンマイアングがベースソロでジャコパストリアスを弾いたり、「As I Am」のリフにメタリカの「Enter Sandman」を乗せたりと、先人への敬意を演奏で表現していた。
一時期は元ネタが透けて見えるオマージュに食傷して離れがちなこともあったけど、やはり温故知新で敬意をもって音楽をするDream Theaterは尊敬する。
休憩をはさんで後半は、1992年に出たであろうレッチリやガンズの曲が、ラジオをザッピングしているようなSE音源でめくるめく流れる。「来るぞ」という予感に応えて、25年前リリースされた「Images and Words」のアルバム丸ごと頭から全曲再現が始まる。
ラブリエがステージ上で転ぶと言うアクシデントはあったものの、3時間を通して当然のように演奏ミスの類は一切無い。
かつてアンコールで良く聞いた「Pull Me Under」「Metropolis Pt.1」ともに「Images and Words」に含まれていたので、今回はアンコールどうするんだろう?と思っていたら「A Change of Seasons」のイントロが聞こえてきた。変拍子に乗れないまま展開が過ぎ去ってゆくのが病み付きになる約25分の大曲を通しでやり切って大円団を迎える。
前任者の印象を上書きする
セットリストの中でも、2部構成の一発目が9thアルバム「Systematic Chaos」の「Dark Eternal Night」から始まった。思い入れのある曲でもないけれど、意図を見出してしまう。というのは、この曲はバンドの司令塔であった前任ドラマーであるポートノイさんが、最もジャイアン的に影響力を発揮してコーラスまで入る曲だったので、ドラマーが変わると演奏することも無くなるのかと思っていたくらいだった。
当時は司令塔ポートノイさんが抜けたらDream Theaterは成り立たないんじゃないか?という心配もあったのが、マンジーニさんを後任に抜擢した2011年から6年も経ち、今や完全に払拭できたと感じるのに充分だった。
他にも、ライヴのハイライトである「Metropolis Pt.1」のギターソロ前にドラムソロを入れて、かつての世界記録保持者は伊達じゃない凄テクを見せつけるなど、ここぞという主要なところでマンジーニさんが存在感を発揮していた。
そういえばキーボードのルーデスさん加入も1999年なのに、加入前の「Images and Words」を我が物顔で弾いている。「前のキーボードと比べてどうだ」という考えにもならないし、むしろ今ではルーデスさん抜きのDream Theaterの方が想像もつかない。
前任者の印象を払拭するには、あえて前任者の得意技を自然にやってしまうのは、パターンとして有効かもしれない。
変化とらしさ
Dream Theaterのライヴは完全再現するのが鉄の掟という印象があったのが、今回そういえば繰り返しや間奏をカラオケみたく省略している個所があった気がする。スゴ技を披露するだけではなく、ステージ映えやエンターテイメント的なところを押し出すようになったような、何か心境の変化めいたものを感じた。
少なくとも、音源とは違ったフレーズを弾いてみたり、幾度となくライヴで聴いた「Metropolis Pt.1」のギターソロを全楽器ユニゾンでやってみたり、意図して変えている個所はある。
でも、音源通り弾けないから変えて誤魔化す類ではなく、より難易度の高い技に挑戦するアスリート的なところは、やっぱりDream Theaterらしい。
改めてアルバムを振り返りながら聴きなおすと、けっこう時代の影響を受けて変化している。例えば4th「Falling Into Infinity」あたりはグランジっぽくラフな雰囲気が漂う。
今の楽器で奏でられるライヴの「Hell's Kitchen」を聴くと、当時の印象とも違い、前後の曲と整合した雰囲気に聴こえるから不思議。
一貫して変わらないものもある。高いレベルで構築されていて理屈っぽく追及する楽しみ方も出来るけれど、めくるめく展開に気持ちが掴まれるのは、どこを切り取ってもDream Theaterらしい。そこに魅かれる。
奇跡のハーモニー
「ロングアイランドアイスティ」なるカクテルがあって、Dream Theaterに通じるものを見出す。どちらもニューヨークのロングアイランド出身。「ジン」「ウォッカ」「テキーラ」「ラム」「キュラソー」という、それぞれが主役に見合う5種類が混ざって奇跡的に調和し、何故か一滴も入っていない紅茶の味がする不思議なカクテル。
Dream Theaterの音源から「この音はギターなの?キーボードなの?」と分からなくなることがある。個々にも超人なのだけど、強烈な個性が一体化しているのに、バンドとして別の個性をもたらすのがまた凄い。
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