DIYワークショップ@オオミシマスペース

これまで私はシステムアーキテクトとして、ユーザーニーズから出発して組込みシステムのアーキテクチャ(論理的構造)へと落とし込むことを生業としてきた。

ソフトウェア開発について語る際に、メタファーとして建築と対比させ、違いについて言及することは多い。それなのに、実のところ建築のことはそれほど深く知らない。

もっとプリミティブな出発点からアーキテクトのことを学ぼうと、この度、オオミシマスペースのクラウドファウンディングから8月12日~13日開催の「DIYワークショップ」に申し込んだ。実はパトロンになるのも初体験だった。


オオミシマスペースに集まる人々

ワークショップの舞台であるオオミシマスペースは、しまなみ海道の真ん中「大三島」に位置し、一棟貸切できる宿として2017年秋頃にオープン予定。

オオミシマスペースに対する期待は大きい。利用者に対しては、田舎生活を身近に感じながら合宿・ワークショップ・テレワークできる場所になる。地域に対しては、人を呼び込んで活性化する起爆剤となる。UXデザイン界隈の我々にとっては、ユーザー体験から出発したサービスを実装に落とし込む実践の場となる。

そんなオオミシマスペースは、先述のクラウドファウンディング等で資金調達しつつ、急ピッチで古民家のリノベーションを進めている。

リノベーションで下手に手を入れると範囲が大きくなって資金を食い潰す難しさがあるところ、建築界でUXデザインを実践されている高橋さんが強い味方となって、前回の視察では「そのまま活かそう」「業者に依頼しよう」「DIYしよう」といったアドバイスを下していた。

「DIYでやる」意思決定が下されたフローリング貼りが、今回のワークショップへと繋がった。大工経験を持ちながら工務店社長でおられる高橋さんが講師を買って出られたおかげで、本物の大工さんから「床貼り」を学ぶ機会が得られた。

よくよく考えると、工務店にとってはDIYなんか普及すると仕事が奪われてしまう。でも、時代の変化を受け入れて次の一手を指さねばならないことが、高橋さん自身のblogで「工務店の無価値化」として述べられている。フリーミアビジネスを模索していたのか!?と気付く。

DIYワークショップのためオオミシマスペースに集まる人々について、CVCAで整理すると皆がハッピーな構図になっていて納まりがよい。


フローリング貼り(金槌編)

お盆の渋滞で遅刻しつつワークショップに参加すると、金槌とポンチを手渡されて、一列に並び無垢床材のサネに釘を斜め45度から打ちまくる。

板を糊付けして、ハメて、寄せて、30cm間隔に釘を打つ間に、講師である高橋さんが床材を次々とカットして持ってくる。

仕上げたフローリングは、お寺の修行僧ばりに水拭きする。

汚さないように養生するので、フローリングの仕上がりお披露目は次回まで持ち越し。完成後のオオミシマスペースでチェックしたい。


フローリング貼り(文明の利器編)

繰り返し作業の中で金槌は上達したものの、たまに失敗して金槌で木材を打って潰してしまうこともあった。反省しつつも「DIYならではの愛嬌だよね」「失敗の経験がワークショップの醍醐味だよね」「むしろ愛着沸くよね」と言い訳を試みる。

きっと、本物の工務店に依頼すれば百発百中で成功するスキルを持って施工され、完璧な仕上がりに対価を払うんだろうかと想像していた。翌日になって、スキルだけの問題ではないという事実を目の当たりにする。「今のペースでは間に合わないかも...」というタイミングで、文明の利器である「フロアタッカー」が投入された。

引き金ひとつでフローリングをホッチキス的な金具で固定できてしまう。ワークショップの参加者が手持ち無沙汰になってしまうくらいの圧倒的効率化。技術の発達が人間のスキルを無意味化してしまう構図は、昨今の人工知能のお話とどこか重なる。

最初からフロアタッカーを投入しなかった理由として、ホームセンターで一般人が買える道具でも出来るDIYについて学ばせる意図があったそうな。金槌でトントン打った苦労があったおかげで、文明の利器の有難さを学べた一面もある。


フローリング貼り(丸ノコ編)

2日目になると、私は丸鋸でのカットを「師匠と弟子モデル」で学び、現場を任せられるようになっていた。自転車のユニフォームは通気性が良く、木材や工具が入って便利だ。

壁際の梁を避けて、納まりよくカットするために「幅定規」で罫書くテクニックを学んだ。

罫書に従ってノコギリで切る。木目に沿って縦か横かで刃を使い分ける。

ノコギリが入らない箇所はノミで落とす。寸法に余裕を持って落としてから、罫書に沿って落とすという、2段階でやるのがコツ。

バルコニーに面するラストの1枚は、丸ノコで曲がった箇所をカンナで整えたり、Rを付けたりする。

ピッタリはまるとエクスタシー!生業であるモノづくりの原点に立ち返って、段取り・構造理解・スキル習得の意味から、自分の出来る範囲を押し広げるワークショップとなった。
幸か不幸か、我が家のフローリングはまだ綺麗なので学んだスキルを活かせる場が無いけれど、何かを自分の手でやってみたい気持ちが湧いてきたのは事実で、工務店の視点では確かに需要を創り出す活動なのかもしれない。


フローリング貼り(弟弟子編)

2日目後半になると単純作業の粋を超えて、作業の段取りが構造としてイメージできるようになってくる。各自が自発的に動き、チームとしても連携できるようになってくる。

端切れに寸法と枚数を記した指示書が飛んでくる。釘打ちがフロアタッカーで圧倒的に効率化されてしまったので、私の木材カット作業がボトルネックになって焦る。

そんなところへ、弟弟子のサッカー少年が投入された。ほんの1日しか変わらないくせに、先輩面してコツを伝えつつ、徐々に仕事を分担してゆく。飲み込みが早くて素直で良い少年だ。

以前に読んだ「状況に埋め込まれた学習」で、洋服の仕立屋がアイロン→裁縫→裁断のように工程と逆順で学ぶという話を思い出す。フローリング職人も金槌→糊付→丸ノコと、工程と逆順に正統的周辺参加しながら、いつしか十全参加者になって弟弟子に教えている。そのサイクルを2日で回すワークショップは随分とレベルが高かった。

そんな集大成として、建物の顔である玄関のフローリングに取り組んだ。オーナーの増田さんと力を合わせ、丸ノコの斜め切りとカンナを駆使することで、巾木で誤魔化さずピッタリの寸法に仕上げた。

フローリングを仕上げた喜びから、オオミシマスペースの壁面の施工で隠れてしまう箇所にお祝いコメントを寄せ書きする。


しまなみの暮らしレポ

今回も大三島滞在は田舎暮らしなのに、繰り返しの都会生活には無い刺激があった。感謝の気持ちを込めて、魅力が少しでも伝わるようレポートしたい。

ワークを終えてのBBQでの乾杯。良い汗をかいた後のビールに勝るものなし。

今回は、ホストファミリーのお母様が差し入れて下さったサザエを4個も食べた。

翌日は朝日に合わせて起床する。後の自転車でエネルギー切れにならないようバナナ摂取する。

しまなみの魅力を伝える秘密兵器、空撮ドローンの操縦体験。

糖分補給のバナナを持っている絵が無駄にカッコよく撮れた。

今回の朝チャリは、大三島の中央を突っ切る16km程度のサイクリング。車道とは別に、勾配を抑えた自転車用の道路がある。

島の反対側にある大山祇神社までチャリで来た!

ついでにサイクリストの聖地も廻る。師匠と弟子によるベストキッドの構図。

自転車後は大三島産の天然工房パンを使ったサンドウィッチを頬張ってから、ワークショップに臨む。

ワークショップ中の昼食は、庭にテントを張って地元のピザを囲んでガーデンテラスパーティー。

2日目が終わったら海で泳ぐと決め込んでいたので、意外と高かった堤防から勇気を出して飛び込み、陸までバタフライ。

二日目の夕食は室内に招いていただいた。自分の仕事を中学生に分かるように(出来れば魅力的に)話す難しさを痛感する。UXデザインとは何かも説明できない...。

お隣の伯方島から打ち上げ花火の音が聞こえたので、大三島の堤防をスタンディングバーにして見物する。

誤魔化しの効かない玄関のフロア貼りを共に成し遂げた増田さんと男の友情芽生える

2泊した最終日は大三島観光ということで、今治市伊東豊雄建築ミュージアムに訪れるも盆休みだった

ただ、伊東豊雄建築のオブジェと風景は倒立映えする。

MR.OMISHIMAに架設されても、インスタ映えしそうな絵が撮れた。

オミシマコーヒー焙煎所にて、古民家から瀬戸内に浮かぶ船を望みつつ水出しコーヒーをいただく

大三島リモーネという意識高い雑貨やさんでレモン味のアイスモナカを堪能した。

世の中はお盆で行き帰りは混んでいたけれど、そんな世間と離れてゆったりとした、それでいて刺激的な時間を過ごせたのはオオミシマスペースに集うみなさまのおかげ!ありがとうございました。

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